【洛南高校バスケ部に学ぶ組織論】伝統を継承し、次世代リーダーへバトンを渡す 60年続くチームのつくり方
高校バスケットボール界の名門校のひとつ、京都の洛南高校。60年以上にわたり全国トップクラスの実力を維持し、数多くのプロバスケットボール選手やビジネスリーダーを輩出し続けています。そんな洛南高校とじげんの交流が始まったのは2022年。3×3(3人制バスケットボール)プロチーム「じげんアップデーターズ」創設時より交流を重ね、2025年度より正式にパートナーシップを結んでいます。
今回は、40年以上生徒を指導し、チームを指揮し続けてきた前監督・𠮷田 裕司先生(以下 𠮷田)と、その教え子であり2024年度よりバトンを受け継いだ現監督・河合 祥樹先生(以下 河合)の対談が実現しました。「自己を尊重せよ・真理を探求せよ・社会に献身せよ」という独自の哲学(校訓)を、いかに組織の行動指針へと落とし込んできたのか。ビジネスや組織マネジメントに通ずる「伝統の進化と継承」「次世代育成」といった観点で、チームづくりのヒントを探ります。
伝統の維持にとどまらない「スタンダードの再定義」
𠮷田先生が長年監督を務められた中で、チームが大きく変わるきっかけや、指導者としての試練はどこにありましたか。
𠮷田:指導者としての大きな転機は、アンダーカテゴリーの日本代表にコーチとして関わらせていただく機会を得たことです。そこで外国人のコーチや他国のトップレベルのバスケットボールに触れたことで、私自身の「スタンダード(基準)」が大きく変わりました。それまでの日本国内だけの基準から、「世界のインテンシティ(強度)やプレーの質」へと、チーム全体の目指す基準を引き上げたのです。
これは今のサッカー日本代表とも同じですね。世界に出て、世界のスタンダードを体感した選手やコーチが国内にその基準を持ち帰ることで、全体のレベルが引き上がる。洛南においても、技術やスキル、戦術、そして選手たちへのアプローチ方法のすべてにおいて、「アジア、そして世界」を見据えた基準を再定義しました。
その「スタンダードの引き上げ」の後に確立されたのが、世に言う「洛南スタイル」なのでしょうか。
𠮷田:「洛南スタイル」とは、一言で言えば「基礎基本(ファンダメンタル)の徹底」です。将来、彼らがどんな環境でバスケットボールを続けることになっても困らないよう、最低限必要なファンダメンタルを徹底的に叩き込みます。洛南が従来から大切にしている、ボールと人が連動した「パス&ラン」をベースに、プレーの一つひとつの質を世界基準に引き上げていく。留学生の登場など、時代ごとに高校バスケットボールの環境は厳しくなりましたが、この「ファンダメンタルを徹底する」という指導の軸は、環境がどれほど変わろうとも守り、磨き続けてきた洛南の背骨といえるものです。

洛南高校 𠮷田 裕司 先生
「個の力」と「組織の知性」を両立する——洛南の哲学と誇り
洛南の「賢く、泥臭く、そして強い」というブランド、そして「洛南としての誇り」はどのようにして構築されたのでしょうか。
河合:洛南のバスケットボールは、身体能力や圧倒的な「個」の力だけで相手をねじ伏せるスタイルではありません。もちろん、個々のスキルを極限まで高めますが、それ以上に「40分間のゲームを通じて、相手を知的に攻略していく」という強さを大切にしています。
一見、華やかに見えるプレースタイルの裏には、地道なファンダメンタルや泥臭いディフェンス、ルーズボールへの執着といった、徹底した積み重ねがあります。相手の攻撃に対してコート上で正確に対処(アジャスト)し、次のプレーを選択していく。この知的な攻略プロセスをチーム全体で共有し、実行できたときに初めて「洛南らしい強さ」が生まれます。その問題解決の姿勢こそが、代々受け継がれてきた洛南の誇りです。
毎年メンバーが総入れ替わっても、「洛南スピリット」が受け継がれるのはなぜか
毎年メンバーが入れ替わる学生スポーツにおいて、この「洛南スピリット」をどのようにして継承しているのですか。
𠮷田:組織における役割やチーム内の仕事においては上下関係が当然存在しますが、ことゲームになると「上級生も下級生も関係ない、フラットな実力主義である」という方針を明確にしています。さらに、1年生であっても伸び代があるならば積極的にチャンスを与えます。その代わり、コートに立つ以上は学年に関係なく「全員が周囲に指示を出せる存在であれ」と求めています。「1年生だから声を出してはいけない」というような無駄な垣根は徹底的に取り払います。
コート内では全員が状況を判断し、お互いに指示を出し合わなければなりません。これこそが、校訓に掲げられている「自己を尊重せよ(主体性・当事者意識)」であり「真理を探求せよ(本質の追求)」の体現です。この「一人ひとりに当事者意識と責任を持たせる文化」が日常に根付いているからこそ、メンバーが毎年変わっても、主体的に判断する組織の遺伝子が受け継がれるのです。

取材日当日は教育実習に来ていたOBが練習に参加し、後輩たちを指導していた
「大きな幹」を継承し、「枝葉の成長」は信頼して委ねる
吉田先生から河合先生へバトンを渡される際、どのようなコミュニケーションがあったのでしょうか。
𠮷田:引き継ぎの際、河合コーチに伝えたのは「洛南の大きな幹(ファンダメンタルや教育者としての姿勢)は分かってくれているはずだから、そこは守ってほしい。しかし、そこから伸びていく枝葉(具体的な戦術や最先端のプレイスタイル)については、君自身の新しい感性でどんどん変えて、新しいものを入れていってくれ」ということです。
そして最も重要視したのは、「彼が指揮を執り始めたら、私は細かく口を出さない」と決めていたことです。組織のトップが複数存在し、上があれこれ指示を出し続けると現場は混乱し、新リーダーの判断力が育ちません。私は一歩引いて、問題があれば選手に見えないところでこっそり伝える。現場での意思決定を完全に任せることで、新世代のリーダーシップを確立させました。
河合先生は、偉大な前任者からトップを引き継ぐ際、どのような決意をされましたか。
河合:私は大学卒業後、洛南高校の非常勤講師から指導者のキャリアをスタートし、数年かけて𠮷田コーチのもとで指導を受けながら監督としての実績を積み重ねていました。プレイヤーとしての目線から教員・指導者としての目線へとマインドシフトし、数年かけて、指導者としての覚悟が固まっていった形です。
大切にしようと心に決めていたのは、「教師と生徒」という本質的な関係性です。特定の推薦選手や上位パフォーマーを特別扱いするのではなく、部員全員を等しく「一人の生徒」として向き合う。これは一見、当たり前のことのように聞こえます。しかし強豪校であるほど試されるこのスタンスを貫いてこそ、チーム全員との本物の信頼関係が築かれると確信していました。

洛南高校 河合 祥樹 先生
「伝わっているか」を問い続ける——個性を見極め、自立を育てるマネジメント
今の高校生(Z世代・アルファ世代)を指導する上で、昔から守り続けていること、時代に合わせて進化させたコミュニケーションはありますか。
河合:今の世代だからといって、本質的な部分は昔とそこまで変わっていないと感じています。ただ、叱責されたときに、反発して「なにくそ」と立ち上がる子が少なくなった印象があります。しかし、そこで手取り足取りフォローすることはしません。最終的には「自分で立ち上がる」しかないからです。
𠮷田:一概に「昔の指導が悪い、今の指導が良い」と決めつけるのではなく、その指導が選手に本当に「伝わっているか」を常に問い、検証し続けることが重要だと考えています。昔ながらの厳しいアプローチで伸びるタイプなのか、それとも方法を工夫すべきタイプなのか。相手の個性を見極めた上でフィードバックを送り、アプローチを柔軟に変えていく。そしてその問いかけを絶えず繰り返す——このサイクルこそが、スポーツ指導のみならず、ビジネスにおける人材育成・チームマネジメントにも通ずる普遍的な実践ではないでしょうか。

練習中の様子
勝利と社会貢献を両立する——永く愛される「チーム洛南」の未来へ
お二人が考える、これからも永く愛され、未来へ繋いでいきたい「チーム・組織」とはどのようなものでしょうか。
𠮷田:チームをより強くしたい、組織を発展させたいという想いは、ビジネスもスポーツも変わらないと思います。勝利や成長を重ね、組織に余裕が生まれてくると、その努力は巡り巡って自分たちに返ってきます。そしてより骨太な組織へと成長していく。そうすれば、自然と周りの人々が興味を持って、信頼して集まってきてくれるようになると考えます。
洛南高校バスケットボール部が、そうした「人が自然と惹きつけられる、信頼に満ちた骨太な組織」であり続けることを願っています。
河合:勝敗という結果を追求することは私たちの使命ですが、それと同時に大切にしたいのが、OB・地域・企業の皆様との「チーム洛南」としての繋がりです。洛南の「社会に献身せよ」という教えの通り、バスケットボール部の活動が、京都の地域活性化や社会貢献にも寄与できるような、社会からも永く愛されるチームを目指して、これからも歩みを進めてまいります。

(写真左)𠮷田 裕司(よしだ・ゆうじ) 1958年生まれ、京都府出身。1977年に洛南高校を卒業し、筑波大学へ進学。大学卒業後、洛南高校バスケットボール部のコーチに就任。長年にわたり同校の指揮官として全国屈指の強豪校に育て上げ、竹内公輔・譲次兄弟や比江島慎など、数多くの日本代表やプロ選手を輩出。現在はチームのコーチとして引き続き指導にあたっている
(写真右)河合 祥樹(かわい・よしき) 1994年生まれ、静岡県出身。洛南高校在学時代はキャプテンを務め、2013年に同校を卒業。早稲田大学へ進学。大学卒業後、2017年より洛南高校バスケットボール部のアシスタントコーチに就任。現在はヘッドコーチとしてチームの指導にあたっている。
